良書報告、2020年2月。
コロナウイルスという見えない敵と、なんとしてもオリンピックするぞ!という政府の強い意志に踊らされている今日この頃だけど、ふと窓の外を見ると晴れやかな日差しが差し込んでいて、春だなあと思わずにはいられない。
2020年2月もあっという間に終わってしまったなーーー。
今月(というか更新遅れて先月、、)は7冊の本を読みました。個人的には満足。そのうち良かった本を紹介します。
SNSで訳者のインタビューを見つけ、なんとなく読んでみたところ、訳者の思想とこの本が辿った運命がとても人間臭くて、思わず本棚を探って読み返した一冊。大学生の頃に初めて読んだ衝撃が蘇り、ついつい夜更けまで一気に読破。衝動ってこわいね、翌朝は眠かったー。
双子の「ぼくら」がおばあちゃんの家に疎開し、厳しい戦時下をしたたかに生きていくという物語。双子による日記という形式を採用したからこそ、読者は背徳感や没入感を自由に得られる。
他の戦争小説と一線を画すのは、戦争の荒涼とした心身状態、貧困といった環境から生まれる「ぼくら」の独創性が天才的だからだろう。他者への深い敵対心とは、無意味に拒否するのではなく、フラットな視点で物事を判断するからこそ生まれる。極限までそぎ落とされた文体が、私たちをより一層「ぼくら」の狂気にいざなう。
世間をナナメにみている天邪鬼に読んでほしい。
とってもよかった訳者インタビュー。人を動かすのは、何事も衝動なのだ。
2、エミリー・ブロンデ『嵐が丘』
究極の恋愛小説!最高の復讐劇!とよく言われている本書、本当は性悪小説だろっ!と訂正したい。そして、いつの時代もダメ男は得をする無常に納得してしまった。
乞食同然だった少年ヒースクリフが嵐が丘に拾われたことをきっかけに、ヒースクリフと嵐が丘の少女キャサリンとの恋愛を描く。貧乏少年が可愛いお金持ち少女と結婚すれば、逆シンデレラでめでたしめでたし。となるところだけど、ブロンデ先生はそんなの許してくれない。キャサリンを資産家エドガーと結婚させたり、エドガーの妹イザベラとヒースクリフを駆け落ちさせたり、ヒースクリフとイザベラの子供をキャサリンが好きになったり、、、びっくりするほどやりたい放題。
溜息が出てしまうほど複雑に重なり合った人物相関だけど、ヒースクリフの憎悪とキャサリンの無垢さが通奏低音として物語を成り立たせていて、その変化を追うだけでも自分の様々な感情が浄化される。
ヒースクリフはどこまでも汚いヤツなんだけど、ふとした瞬間に染み出す人間味が捨てきれなくて、どこか愛着を持ってしまうんだよなー。ほんとうにダメ男は怖い。
3、アリス・ウォーカー『カラーパープル』
カラーパープル、めっちゃ良かったから読んで!!!
20世紀に欧米で起こった人種差別、女性差別が凝縮された一冊。昨今のフェミニズム論争からすると少し時代遅れなのかもしれないけど、日本に暮らして欧米よりも人種差別などを感じなかった身からすると、すべてのセリフが新鮮だった。
黒人娘・セリーはミスター**(名前も知らない旦那!)に嫁ぎ、虐待させられ、誰からも見向きもされなかったが、歌手・シャグとの出会いにより自身の生きる道を自覚し逞しく進む物語。セリーの妹・ネッティーが宣教師としてアフリカに渡り、地元から知識人として信頼を得ている点もセリーと対照的で、物語に一層深みを出している。
外の世界で成功しているネッティーを見て、姉であるセリーは我慢ならないと思うんだけど、今の状況を受け入れて必死に歯を食いしばって生きるセリーを見ると、素直に生きることの尊さを感じる。
黒人女性が男性に話しかけられない世界なんてどう考えたって間違っているんだけど、「なんでこうなっちゃったの」と原因を探る私に対して「そういう運命なの」と悔しさに蓋をして真面目に前を向いて生きているのがセリー。逃げ場がないなかでも腐らずにいるってすごいことだと感心してしまった。セリーは落ち込んでも生き生きしていて、私も腐ってらんねーな!と鼻息荒げてしまった。
そして、ミスター**こそ現代を代表しているような気がしていて、すごく興味深かった。というのも、ミスター**は女性に人権はないと思っているし、性犯罪起こしまくりだし、自身の見栄えに執着していて、どこまでも酷いヤツ。近くにいたらつまみ出したいくらい。そんな凝り固まった人でも、セリーの活躍を見ることで自分の言動を見つめ直して他人に寄り添おうと変化したのだ。物語だからと侮ってはいけず、ミスター**の変化を感じ、読者は自身の正義を問い直すきっかけになるのでは。
2月はこの3冊かな。以上、良書報告でした。
今月もいっぱい読んで思考するぞー。