良書報告、2020年3月
ますます物騒な世の中になってしまったなあ……。新型コロナウイルスめ。
3月はずっと在宅勤務となり、慣れない在宅勤務に終わりの見えない繁忙期が重なり、振り返れば発狂しそうだった。一人暮らしの私は話す機会がぐっと減ったことも、精神的にきつくなった要因。人間(というか私)は、目に見えない形でいかに他人に助けられているかを思い知った。
繁忙期が終わって日中の時間にゆとりができたので近所を散歩してみたら、桜が咲き誇っていて心から感動した。無機質な空間にずっといたので、春爛漫な小道を歩ける幸せを噛み締めた。
内向的性格に外出自粛が追い打ちをかけ、3月は11冊の本を読んだ。どれも一級品で楽しかったー!
狭い部屋で軟禁生活をしてたけど、本はいつでもどこでも生活に新鮮味を与えてくれるから素晴らしい。ウイルスに負けずに生きたい。
1.井上康『敦煌』
なんでいままで読んでこなかったんだろう。読了後の興奮醒めやまず、いろんな人にこの本を薦めている。読んだ人と朝まで語りたい一冊。
ジャンルは中国歴史ロマン。官吏試験に落第した趙行徳は絶望の最中、全裸の西夏女性に出会う。彼女が持っていた一枚の布切れに書かれた文字に引き寄せられた彼は、生活の全てを投げうって、文字の謎を解く旅に出る。
この物語を面白くしているのが、主人公・超行徳がどこまでも知的欲求に従って生きているという点。物語の舞台は血なまぐさい戦が絶えない戦国時代であり、厳密な階級社会でもあり、いわば生きるか死ぬかの必死な毎日だった。それでも、湧き出る知的欲求を満たすために尽力する超行徳が尊く美しい。
そして、圧巻のラスト。ま、まさか、こんな形で行徳の精神を現在につなげるのかー!
筆者のバトンを受け継いだ私は、図らずとも背筋が伸び、手が震え、学ぶ大切さを身に染みて感じた。学ぶってほんと人間の特権だな。
2.ケン・リュウ編『折りたたみ北京』
最近の中国SFブームに乗って、私も毎月1,2冊、中国SFを読んでいる。
やはり表題作『折りたたみ北京』が面白かった。タイトルどおり北京が折りたたまれてるんだけど、そこに人間模様も入れ子構造になっていて、世界観が圧倒的に魅力的。
それに設定がややこしいと思いきや、俯瞰すると現代の資本主義と全く同じ構造で笑ってしまう。金持ちは生まれながらにして金持ちだし、成金では覆せない事実は変わらない。でも大事なのは、人間の心は平等で、地位は介入できないということ。この物語でもひとつのテーマになっている。
どれも短編で面白いので、息抜きにどうぞ。
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3.J.オースティン『高慢と偏見』
これ200年前に書かれた小説なんだけど、なんでこんなに面白いの!!!と一人叫びながら夜な夜な読んでた。
これぞ、ラブコメの極み!
読んでいるときの感覚は、修学旅行で枕突合せながら恋バナした、あの頃の感覚と似ている。クラスメイト同士の人物相関図を頭の中で描きながら、誰がどういう気持ちなのかを確認しあう。もしも好きな人が被ってたらどうしようとか、相手からどう思われてるのか気になるけど知りたくないとか、今となってはどうでも良いことに一喜一憂していたあの頃。翌日異性の目線が妙に気になったとかもあったなー(恥ずかしい)。
200年経っても全く変わらない恋模様を、オースティンは見事に描いている。登場人物が多いのに、一人ひとりの気持ちが手に取るように分かるってすごくない?
登場人物の気持ちが分かるからこそ、誰かを応援したくなったり、こうなってほしいと望んだりして、読んでるときのわくわくが止まらない。
それに、主人公・エリザベスは賢くてちょっと皮肉っぽいところに親近感がわく。物語に登場する愛すべきおバカたちを、正当に面白おかしく非難してくれるから。
でも読み進めるうちに、読者の笑いや非難、羨望が”高慢”と”偏見”に満ちていることに気づき、ギクリとさせられるのである。
在宅勤務に飽きたら気分転換にこれ読んで!と言いたい1冊。エッセイで読みやすい上に、筆者の仕事論やエピソード(笑える下ネタ)が満載なので、仕事の合間に読むとやる気が湧いてくる。
ちなみに筆者は凄腕のロシア通訳者。通訳とはできて当たり前で、訳せなかった瞬間に非難されるという感謝されにくい職業。さらに、通訳者の理解が聞き手の理解の最大値になるのでビジネス的センスも非常に問われる重要な役割だが、その場で正解が分かる人がいないので評価されない。そんな中、自身で通訳の重要性、仕事の面白みを見出し、「頂上のない登山」をする姿はかっこいい。
3月はこんな感じかな。以上、良書報告でした~!